Last Updated on 2023年10月1日 by 海外勤務のすすめ
この記事を書いた人
西原タオル
ライター・編集者。東南アジア各国で約9年間、日系企業のサラリーマンとして駐在生活(シンガポール、マレーシア、ベトナムなど)。現在はフリーランスの「何でも屋」に。
海外赴任生活が終わった元駐在家族で、帰国後にメンタルヘルスの調子を崩してしまう事例が多いことをご存知ですか。
海外生活に順応した反動から、母国の環境がストレスになってしまうからです。
メンタル不調が悪化して休職してしまったり、時には入院してしまったりすることもあります。
駐在者本人、帯同した妻(夫)、子ども、それぞれのメンタル問題の特徴や対処法を学びましょう。
帰国後の環境変動に耐えられるようになります。
目次
1.駐在者本人のメンタルヘルス
海外駐在からの帰任、多くの企業では出世コースですから駐在者本人もうれしいはず…なのですが、海外に順応してきたがゆえに、日本のビジネス環境に慣れないこともあります。
1−1.本帰国は「新しい海外赴任」と思え
帰国した元駐在員たちの多くが、「日本はまじめすぎる」と不満を漏らします。
でも本人は海外赴任の当初、現地スタッフの勤務態度や仕事成果を「ルーズすぎる」と言っていたはず。
現地に慣れるにつれ、現地のルーズさは「臨機応変さ」に置き換わってしまったのですね。
また、赴任先では現地法人の責任者であっても、本社では主任や課長でしかない場合も。(現地でボスと呼ばれてきたのに…)と不満が溜まり、メンタルもゆっくり削られてしまいます。
南米駐在から帰任したWさんは、そうした環境の変化から不眠症になってしまいました。
現地の元部下に悩みをメールしたところ、「ボス、それは新しい海外赴任じゃないか」と返信が。
それ以来、「これは帰任じゃなくて横異動=新たな海外赴任」と気持ちを切り替えたところ、日々のストレスも「赴任地での課題」と思えるようになり、スーッと楽になったとか。
帰任は凱旋ではなく、新たな挑戦だとの心構えが必要です。
1−2.転職も選択肢に
帰任後の職場にどうしても慣れない、メンタルの不調は限界だと思った方は、転職も考えてみませんか。
海外赴任できたのは会社のおかげかも知れません。家族の生活を考えると我慢して定年までじっとしていたほうがいいと思うかも知れません。
でも、ストレスで本人がつぶれてしまっては家族に大きな心配をかけてしまう上に、貴重な海外経験を社会で生かすこともできなくなってしまいます。
ストレスが減るならば、多少は待遇が低下しても長期的にはプラスになります。
さらに海外赴任の経験は、転職市場で大きな評価ポイントなんです。
転職エージェントに登録してみたところ、思わぬ大手企業から声がかかった人も大勢います。
つらくなったら、ぜひ転職も考えましょう。
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2.帯同した妻(夫)のメンタルヘルス
駐在者本人に帯同して海外に住んだ妻または夫にとっても、帰国は大きな負担になります。
2−1.最初は家政婦サービス利用も
帯同した妻(夫)にとって帰国の負担になるのが、家事です。
海外駐在中、掃除や洗濯を代行してもらえるサービスアパートメントに住んでいた方や、掃除と洗濯に加えて炊事まで代行してくれるメードさんを雇っていた方も多いでしょう。
海外赴任手当があって、物価も違うからこその利点です。
ところが帰国後、海外に比べてこじんまりとした日本の家で、日々の家事に追われるようになると、「ああ、海外生活はよかった…」と、後ろ向きの思いで心が満たされてしまいます。
そこで、最初の数か月だけでも、家政婦サービスを利用しましょう。
海外時代を懐かしみながら、ゆっくり家事に慣れていくのです。
家政婦さんを雇うのも…と躊躇されるかも知れません。
Cさんご家族は帰任後、奥様の負担を軽減するため、食材の宅配サービスに加入しました。
海外で家事をメイドさん任せだった奥様にとっては、日本の狭いスーパーでの買い物が大きななストレスだったのです。帰国後しばらくは家事を軽減して下さい。
2−2.悪口はSNSで発散しちゃダメ
帰国のストレスを、ブログやツイッターなどのSNS(交流サイト)で発散してしまう帯同妻(夫)がいます。
朝から晩まで「日本はここがダメ、あれがダメ」と文句を言い、決まり文句は「海外では○○なのに日本はダメ」。
海外の例を引き合いに出して日本をクサす「海外出羽守(かいがいでわのかみ)」と揶揄される対象ですが、出羽守になって不満を吐き出すと、一瞬、スーッとなってストレス解消したつもりになれるんですよね。
ただ、匿名であっても、SNS上で日本社会やご近所、親戚や友人知人の悪口を書き連ねるのは絶対止めましょう。
海外赴任は昔よりも珍しくないとはいえ、まだまだ海外生活はレアな体験。
何気なく書いたキーワードを頼りに、すぐ誰が書き込んだのか特定されるものです。
近所や駐在者本人の会社に知れ渡ると、ますます日本に居づらくなりかねません。
愚痴りたいときは、カウンセリングを利用して下さい(後述します)。
3.子どものメンタルヘルス
海外生活は、大人よりも子どものほうが素早く順応できたかも知れません。
でも、母国である日本に素早く馴染めるかというと…苦労するケースが多いのです。
3−1.「勉強がわからない」を絶対責めない
現地校やインター校に通っていた子どもの場合、日本の学校に編入すると「授業がわからない」という子が多くなります。
同じ教科でも所変わればカリキュラム(教育課程)はもちろん、各教科の背景にある教育哲学も違います。
たとえば、日本の算数は基礎固めとして「計算問題」を解くことを重視しますが、欧米では「文章題」が比較的多くなります。
帰国子女の中には、日本の子どもたちがスラスラと計算問題を解く姿にショックを受ける子も多いのです。
こうした教育スタイルや内容の違いから不登校になる子も多くいます。
こんなとき、子どもには「場所によって教育方法は変わるもの」「現地で受けた教育は間違ったものではない」ことを繰り返し伝えましょう。
学校評価が下がってしまっても責めないこと。
もちろん、このまま日本の教育スタイルに慣れないのも辛いもの。
塾に通うのが恥ずかしい子もいますから、家庭教師をつけるのもいいですね。
近年では、スタディサプリのようなオンライン講義を活用する例も増えています。
帰国後の子どもの教育については、こちらの記事でまとめていますので、ご覧ください。
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4.メンタル不調が続くなら治療も必要
本帰国のストレスも時が経てば軽減されるはず…ですが、どうしてもつらいとき、しんどいときは、専門家の力を借りてみませんか。
精神科と聞くとハードルは高いですが、いまは地方にも心療内科、メンタルヘルス専門外来などが多くあります。
専門医だけでなく、心理カウンセラーでも大いに役立ちます。
カウンセリングで先生に悩みを打ち明けるだけでも、こころが軽やかになる場合が多いのです。
さきほど指摘したように、匿名でSNSに罵詈雑言を書き連ねるくらいなら、カウンセリングを受けて下さい。
専門家に診てもらったほうがいい状態の目安は、睡眠と食欲です。
眠れない、食べれない、これはメンタル不調の明らかなサインです、
帰任後、不眠が続いたFさんは、奥様の勧めで心療内科を受診しました。
アラフィフにして初めて遭遇した「こころのトラブル」、最初は緊張していましたが、先生に不満を話すだけで楽になったと言います。
睡眠導入薬も処方されました。
薬には抵抗があったものの、先生は「今はとにかく寝ないと、さらにメンタル悪化するよ」。
その後、徐々に投薬量を減らし、半年の通院で治療は終わり。今では元気に勤務しています。
子どもの場合は要注意!
ただ、子どもの場合、「不登校になったから通院」は絶対だめ。
まず親だけで専門家に相談して下さい(各自治体には不登校支援の窓口がありますし、「不登校支援センター」のような全国規模の専門機関もあります)。
不登校の子どもはとても繊細です。
「自分は病気だと思われてるんだ」と感じることで、さらに傷つくことがあるんです。
そして、お酒やギャンブルでのストレス発散はやめましょう。
過度な飲酒はさらに精神状況を悪化させますし、ギャンブルはこころだけでなくお財布も壊してしまいかねません。
5.まとめ
海外赴任からの帰国で、駐在者本人、帯同した妻(夫)、そして子どもに起こりかねないメンタルヘルスの問題とその対応方法でした。
心安らぐはずの本国での生活が、海外生活を経験したがゆえに苦しくなってしまうのは悲しいですが、紹介した対処方法を実践して見て下さい。
そして自分や身内だけの力に頼らず、時には専門家も活用しましょう。
頑張りすぎず、自分と家族をいたわりながら、帰任後のこころの問題と付き合っていきましょう。