Last Updated on 2023年10月1日 by 海外勤務のすすめ
昨今は残念なことにテロが珍しいものではなくなってしまいました。
テロは大々的に報道されるため、世界のどこもかしこも危ないと感じるかもしれませんが、実際にテロに巻き込まれるケースはめったにない確率でしょう。一方で、社命で派遣されている出張者、駐在者が万が一テロの被害に遭えば、大きく報道されるでしょうし、会社の責任も少なからず追及されるかもしれません。
海外で勤務する者として、テロの被害に遭わないための予備知識と対策が求められる時代になってしまいました。この記事では昨今のテロの傾向と予防策について見ていきたいと思います。
目次
1.昨今のテロの特徴
まずは昨今のテロの傾向について見ていきましょう。
特徴1.ISなどテロ組織へ賛同する組織、個人の増加
2014年頃からのISの台頭により、テロは世界へより一層拡散されてしまいました。現在、ISの勢力は弱まりつつありますが、ISには世界中にネットワーク(支援組織)があり、支部組織への資金や武器・ノウハウの共有、支援をしています。テロ組織の中には、一方的にISに賛同、協力を示し実行するものもあります。
更には、最近では組織でなく、過激思想に染まった一個人がISに共鳴して犯行に及ぶケースもあり、未然に事件を防ぐことが難しいケースもあるのが現状です。
特徴2.ターゲットは「外国人」に
一部のイスラム過激派は、異教徒である外国人(欧米人)をターゲットにすると宣言しています。外国人を狙うことで国際的に報道されることになり、テロ資金集めや組織へのリクルート、他勢力への権威付けにもメリットがあると言われています。
また、ISを攻撃・軍事支援している国(以下)は、テロリストがターゲットにすると明確に宣言しています。テロリストにとって、外国人がターゲットにされていることを理解する必要があります。
ISを攻撃・軍事支援している国
アメリカ、フランス、ロシア、オーストラリア、カナダ、イギリス、ドイツ、トルコ、イタリア、ポーランド、デンマークなど ※日本も約60ヶ国から成る有志連合軍の一員
特徴3.テロの手段の多様化
テロ攻撃は、「無差別銃撃」、「人質をとっての立て籠もり」、「爆弾・自爆テロ」の3つが主な手段になりますが、最近では人ごみにトラックで突入する、刃物を振り回すなどの方法も散見されており、新たな手段も増えています。
今後もテロは無くならないでしょう。テロとの戦いは「思想を摘む」戦いだからです。いずれにしても海外で勤務する邦人は、テロの被害に遭わないようにどう予防するか、考えておくようにしなければなりません。
このような特徴を踏まえたうえで、どのような具体的な対策が効果的でしょうか?
2.テロリスクの高い時期と場所
テロには警戒が必要な時期と場所があります。これらの組み合わせで状況を判断することで、危機を回避できる可能性が高まります。
まずはどのような時期に注意をすべきか、以下に記載しました。
リスクの高まる「時期」
・ラマダン期間中
・イスラム圏の金曜日(礼拝日)
・テロ組織から攻撃予告やテロの呼びかけがあった時期
・宗教イベント中(クリスマス、復活祭、イスラム教の行事期間中など)
・記念日の応当日(大規模テロの翌年の同じ日)など
これらの期間中はテロに警戒が必要な時期になります。特に宗教心が高まるラマダンの時期は注意が必要です。また、テロリストが仲間に攻撃を呼びかけることもあり、大使館から注意喚起情報が発信されることもあります。加えて選挙期間中もテロのリスクが高まります。このような時期には、普段よりテロに警戒すべきと言えるでしょう。
リスクの高まる「場所」
続いてリスクの高まる場所をご紹介します。
・政府・軍・警察施設
・空港、公共交通機関
・外資系の象徴となるホテル、ショップ、施設
・外国人が集まる場所、レストラン等
・観光地、コンサート会場、スタジアムなど人が多く集まる場所
このような場所では一般的にテロリスクが高いと言われています。具体的な理由については後述しますが、このような「時期と場所」を組み合わせで考える事が重要なテロ対策につながります。
例えば、以下のようなケースです。
・ラマダン期間中の金曜日に、欧米人が集まる飲食店で遅くまで酒を飲む
・テロ予告期間中に不用意に空港の入り口で長居をする
上記のケースではリスクが高いと言わざるを得ません。まさに時期と場所の掛け算です!出張中でも、時期と場所を少しだけ考慮するように注意してみましょう。こうすることでテロ被害を未然に防げる可能性が高まるのです。
3.気を付けるべき場所
前述の「注意が必要な場所」について、より具体的に見ていきましょう。
A.政府・軍・警察施設
反政府、反体制を名乗るテロリストの標的は政府です。つまり、軍や警察、政府関連施設は攻撃の対象とされやすい傾向にあります。
そのため、警察施設や各国の大使館が並ぶエリア、国連関連施設などに不用意に近づかない、長居しないことも重要な対策となります。現にパキスタンなどでは、ほぼ毎日警察施設や警察車両がテロ攻撃の被害に遭っています。
しかしこれらの施設は警備も非常に厳重でテロリストにとっても狙いにくく、最近ではスーパーマーケットやコンサート会場など、警備がさほど強固でなく一般人が多数いる施設がテロの標的になりつつあります。
また、反政府勢力にとって、政府に加担する企業も反勢力とみなされ、過去には開発・インフラ系の企業や、海外からの技術指導で同行する企業がテロの被害に遭っている事例もあります。そのような企業の現場、オフィス、関連施設はリスクが高まる場合もあります。
B.空港、公共交通機関
空港も外国人が多く、過去に何度もテロの舞台となっている場所です。空港での対策はとにかく早くセキュリティエリア(荷物検査後)の中に入る、という点です。空港カウンターや入口近くの不特定多数が出入りできるエリアでは、テロのリスクが高まります。イスタンブール空港でテロリストが自爆した事件がありましたが、あれも空港入口近くです。
また到着後の空港でもセキュリティエリアを出たら早めに空港を後にする、不用意にロビーに長いしないことも重要になります。
C.外資系の象徴となるホテル、ショップ、施設
前述のとおり、外国人(欧米人など)はテロのターゲットとなっています。
そのため、その地域での外資のアイコン(象徴)となるような、ホテル、ショップ、施設などでは注意が必要です。具体的には外資系ホテル、外国人が多いレストラン、外資のファーストフード店などが挙げられます。
特にホテルはおのずと旅行者(外国人)が集まります。更に米系、英系のホテルは白人の宿泊客も多く、ジャカルタでも過去にリッツカールトンなどの外資系ホテルが爆弾テロの被害に遭っています。ホテルでの対策としては、ロビーに長居しない(不特定多数が出入りできるため)、セキュリティのしっかりしたホテルに宿泊する、時期や必要に応じて、欧米系ホテルは避け、地元資本のホテルへの変更も検討する、などの対策が可能でしょう。
また、外国人が多く集まるバーやナイトクラブ、レストランでも注意が必要です。イスラム圏の人の中には、肌を露出して、飲酒して騒ぐ欧米人を快く思わない人がいるのも事実です。
D.宗教行事・記念日の会場
クリスマスマーケット、独立記念日の花火大会、復活祭・感謝祭などの宗教イベント等にはたくさんの人が訪れますが、このような特別なイベントの会場もテロのリスクが高いと言えます。人ごみに不用意に長いしないことも重要な対策になります。
E.街中、観光地、コンサート会場、スタジアムなど人が多く集まる場所
テロリストはより多数を攻撃することを目的としていますので、一般人が多く集まる場所もテロリスクが高いと言えます。具体的には観光地(外国人も多いので要注意です。)、コンサート会場やスタジアム、大規模ショッピングモールなどがあります。
ただ、このような場所に現地で生活をしていて行かないことは難しいでしょう。行かざるを得ない場合は、人ごみを避ける時間帯を考慮する必要もあるかもしれません。また、自分は今テロリスクの高い場所にいると自覚をして、万が一「ここでテロが起こったら?」と想定をすることも重要です。具体的には、以下のような対策を行いましょう。
・レストランでは裏口近くの席をとるようにする。(銃撃の第一撃を回避する、直ぐに裏口から逃げれるようにしておく。)
・レストランやホール会場などでは入口とは別の出口を確認しておく
・危険を早く察知する。街中、駅でのイヤホンの利用をしない。
まとめ
最後になりますが、テロは万が一のケースです。年中警戒する必要はありませんので、特にテロ警戒が必要な場合は、「時期と場所」の話を思い出して、必要に応じて対策をしてください。
また、残念ながら万能なテロ対策はありません。交通事故も然りですが、事故を防ぐ努力はできますが、巻き込まれてしまう可能性は常にあるわけです。その可能性を極力低くするためにも、海外勤務者の個人個人が自分で対策を考えて、危機意識を持っておく必要があるでしょう。